「さて、システムの説明をしましたが、実のところは皆さんには、もうすでに関係のないことなのです。先ほども言いました、トルハーは光通信で転送するのです。つまり、時間の壁をも超える装置です。あらゆる物質も、人間も、世界をもあまねく転送します。時間軸を跨いだ「完全複製」といえばいいでしょうか。」
会場の雰囲気が緊張する。
「今、現時点のこの世界も、私が作り出した無数の並行空間のうちのひとつであります。皆さんの意識が認識しないようにこの世界を記録として、取り込まさせていただきました。そしてすでにあらゆる時間軸に並行世界を作り出しました。私はそこで、ただ人間の成り行き、すべてを見ていきたいのです。時より戦争や大災害を起こしてみては、人類的な積み重ねとその崩壊を繰り返し延々と見ていたいのです。自分を神格化しているのは承知しております。それでもただ、無数の時間軸にある膨大なサンプルを調査しては、満足を味わいたいのです。」
博士の望むところのものは、常に皮肉めいている。
「人間がいかなる革新を図れるのかをただ見ていきたいのです。永遠が約束されるこれから先に、超自然的な自然を構築したいのであります。二度と干渉されることのない世界で。」
博士は「真剣」そのものだ。
「それで今日お集まりの皆さんにはこの計画を、この世界の人々に報道してほしいのです。他の世界では私は基本的に傍観者の立場をとりますが、この世界だけは特別ですから、よろしくお願いします。」
世界中の倫理と規範が融けていく。
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