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  「何か」を残すための備忘録ブログ
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 「さて、システムの説明をしましたが、実のところは皆さんには、もうすでに関係のないことなのです。先ほども言いました、トルハーは光通信で転送するのです。つまり、時間の壁をも超える装置です。あらゆる物質も、人間も、世界をもあまねく転送します。時間軸を跨いだ「完全複製」といえばいいでしょうか。」
 会場の雰囲気が緊張する。
 「今、現時点のこの世界も、私が作り出した無数の並行空間のうちのひとつであります。皆さんの意識が認識しないようにこの世界を記録として、取り込まさせていただきました。そしてすでにあらゆる時間軸に並行世界を作り出しました。私はそこで、ただ人間の成り行き、すべてを見ていきたいのです。時より戦争や大災害を起こしてみては、人類的な積み重ねとその崩壊を繰り返し延々と見ていたいのです。自分を神格化しているのは承知しております。それでもただ、無数の時間軸にある膨大なサンプルを調査しては、満足を味わいたいのです。」
 博士の望むところのものは、常に皮肉めいている。
 「人間がいかなる革新を図れるのかをただ見ていきたいのです。永遠が約束されるこれから先に、超自然的な自然を構築したいのであります。二度と干渉されることのない世界で。」
 博士は「真剣」そのものだ。
 「それで今日お集まりの皆さんにはこの計画を、この世界の人々に報道してほしいのです。他の世界では私は基本的に傍観者の立場をとりますが、この世界だけは特別ですから、よろしくお願いします。」

 世界中の倫理と規範が融けていく。

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「では、基本デバイスの説明をします。、、っと、その前に。えぇ、、、一昨年の年末に次世代大容量記録媒体として「Atomic memory」が開発されています。加速器を使ったアレです。こちらは原子の粒子一つ一つに情報を書き込むというシステムで、まぁ開発元より私の方が当然詳しいですし、「パテント」が成立して以来放置していたんですが、私が改良したところコピー率は「完全」になりました。トルハーにはこの完全版Atomic memoryが取り入れられています。ポイントは完全版でなければならない所です。博物館に行けばDVDなんてものがありますが、あれのコピー率なんかはイレヴンナインくらいでしょうか。綻びがあるわけです。このトルハーにはそれは許されませんので、改良は慎重に行いました。パテントは取ってないですよ。これから先、誰にも作れないと踏んでますから。」
研究員が会場に資料を配り終える。字面のみの資料も博士のあてつけであろう。
「トルハーは、分解、記録、転送、構築の四段階に分けられています。まずは分解。対象に高周波パルスレーザーや粒子光線、さらにはガンマ線、、、まぁ簡単にいうと複数の不可視光線をあてて原子レベルまで分解します。このとき同時に対象の構築情報を原子レベルで精密に記録します。この膨大な情報を記録するのに先のシステムが使われるわけです。無限に近い桁数の原子でありますから、「完全」なコピー率でなければならないのです。確かに俗の真似事では不可能なことですよ。開発には相当に、相応に、苦労しました。その、、、夢とうい燃料がなければ、今は無かったでしょう。まぁ本当に、「今」もここには無いんですけどね、ははっ。」
再び出かけた言葉を飲み込んだ。
「おっと、話を戻しましょう。続いて転送です。なんてことはありません、膨大な情報を光通信で送るだけですから。ただ現存のインフラでは不可能ですけどね。綻びがありますから。まぁ、そうして転送された完全な情報をもとに、復元構築をします。真空でなければ、空気等のなにかしらの原子が自由に存在する場所であれば同様にレーザーで行うことが可能なんです。、、以上が四段階の大雑把な行程です。シンプルですよね。ここまでの、スペックに対する質問はありませんか?」
会場からのレスポンスは無い。皆メモを取るのに必死だ。資料は読むのに時間がかかるため博士の言葉を書きとめようと決断したのである。賢明な判断であったが、それも博士の手のうちである。博士はさっさと会見に見切りをつけ、役割を与えられた自分の時間を獲得したかった。

(第三部へ続く)


 Torhar(トルハー)完成の記者会見に博士は律儀にも三分遅刻して現れた。不精なタイの締め方、髭、伸びた長髪、外観のせいもあって博士の意図を汲み取れる者は会場に殆ど居なかった。椅子にかけ、彫りの深い目で辺りを見渡し、フランクに喋り始めた。
 「この会場の前を通る空道 裏1018 号線下段上り方向で、まぁ、、お集まりの皆さんは此処を経由して来場されたかと推測されますが、先ほど衝突事故がありました。空のアクセスは渋滞を超えて飽和に近い状況だと私は以前から述べてきました。いや、、、記者の皆さんは私の下調べをしてきているでしょうから、説明は要りませんね。」
博士は学会でこの交通危惧について優れた論文を発表したものの、学会にでさえ賄賂が飛び交うこの時代、博士の論文は盗作の的にすぎなかった。しかし常習の盗作だけならまだしも、告発するとその盗作された論文と賄賂で囲った人材を盾に、あろうことか博士が盗作したのだと非難され、学会を追われてしまった。博士が嫉妬の対象になり、その度に気づかされる劣等感が他の研究者のプライドを削ぎ、狂わせたのだ。学会を追われて以来博士は俗とは一切の関係を切り、会社社長で唯一のスポンサーである親友から融資を受けて人里離れた山奥に、法的な手続きは踏まさせてはくれなかったが、小さな研究所を開いた。
 「殊更、裏1018 号線はシグナルシステムが陥落(ダウン)しやすい。層形交通制が採用されても尚私が述べてきた通りに事故が起きていますよね。まぁ、私は事実を言っているまでですが、後の祭りなので話を進めましょうか。」
発言に心情を想起させる抑揚が見られる。博士は折から無意識に皮肉を言うように変わってしまった。学会では間投詞が禁忌であるということも、最早博士は忘れているのだろうか。それともあえて使ってやろうという意図なのか、いずれにせよやはり博士は変わった。
 「改めまして、えぇー、、皆さん。今日はご多忙の中お集まりいただきありがとうございます。今日は私たちの研究所があるデバイスを完成させたことをお伝えするべく、会見を開かせて頂きました。」
博士が合図を出すと、研究員がプレゼンの準備を始めた。訳ありの研究所であるだけに、人材も曲者ぞろいである。
「デバイスの研究テーマは『Transportation of resolved human and  restoration』。T,O,R,H,A,R,からトルハーと呼んでいます。簡単に言うと、転移装置です。イメージとしては瞬間移動といいましょうか。加えて、、、。これは後で説明しましょう。」
博士は喉まで出てきた言葉を飲み込んで、制止した。自信の笑みが綻びる。

(第二部へ続く)

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